自著を語る
平成23年8月29日「小原台クラブ会報」投稿記事 

 私は、陸上自衛官であった平成19年から、平成22年10月に退官して今日に至るまでに三冊の著書を出版しました。 

 まず一冊目は、平成20年10月に、前年の平成19年10月に宝島社が同じ表題で刊行した別冊宝島1468号を改定し、文庫化(宝島SUGOI文庫)して発行された『戦略・戦術で解き明かす 真実の「日本戦史」』です。この本は、純粋に戦略・戦術的観点から過去の戦史・戦例を分析し、解説することにより、読者の皆様が戦略・戦術とは何か、そして戦略・戦術的思考とはどのようなものか―を正しく理解していただくことを目的としたものです。 

『日本人が信じ込まされた「戦史の常識」を自衛隊の元戦術教官が覆す!楠木正成から沖縄戦までを大胆検証』というキャッチフレーズで「元寇は、神風がなくても勝っていた」「長篠の戦いで三段撃ちはなかった」「川中島、車懸りの陣は存在しない」「乃木将軍でなければ、旅順は落ちなかった」「ソ連軍の死傷者が多かったノモンハン」など、刊行当時としては「意外な真実」を図とデータを多用しつつ戦略・戦術的に解き明かしました。 

冒頭「はじめに」では、戦略・戦術的思考とは何かを解説し、その向上には単なる知識の注入ではなく、戦史を基盤とする「深い洞察力」と「総合的な判断力」の鍛錬こそが重要であると強調しています。戦史の解説につきましては、私自身が執筆した部分のほかは、私の口述を元に3名のライターの方が執筆し、それを戦略・戦術的観点から私が監修しました。 

   二冊目は、平成21年12月にナツメ社から初版が発行された『図解雑学 名将に学ぶ世界の戦術』です。この本は、世界の戦史における勝敗の決定的瞬間を解明することを目的に、攻撃行動、防御行動、後退行動・遅滞行動(複合行動)、奇襲・急襲・強襲といった戦術それぞれを具体的な例を挙げ、絵と文章でわかりやすく図示して解説しています。これにより、古今東西の戦いにおける偉大な指揮官たちの判断や行動を追体験することで、戦いに勝つための原理や原則を具体的に理解できるようになっています。 

本書の第一章「戦術とは何か」では、前作『真実の「日本戦史」』では、十分に語りつくせなかった部分を深め、図解してさらに理解しやすくすることができました。また、コラムでは「名戦術家の条件」として、古今東西の優れた戦術家が、同時に優れた指揮官であったという持論を論理的に解説することができました。本書の執筆にあたり心掛けたことは、「複雑で難解な事象をいかにして簡潔・明快に読書に伝えるか」ということでした。これは陸自で指揮官・幕僚として鍛えてきた「命令・号令」のあり方や、戦術教官として自分なりに開拓してきた教育技法そのものでした。重要なことは、「簡潔にして要を得て、しかも一点の疑義もなく」表現するということです。 

この『図解雑学 名将に学ぶ世界の戦術』では、それまで自分なりに研究してきた成果を、出版社の要望で8〜9ヶ月程度でまとめて原稿にする予定でしたが、実際に取り掛かると、図解雑学シリーズとしてページ単位での厳しい字数制限を守りながらの執筆や、各種の戦術行動に合致した約五十もの戦例を選び、それらの戦闘経過図を自らパソコンで作成するのに、1年2ヶ月を費やしてしまいました。これらは全て自衛官としての勤務時間外に自宅で行い、睡眠時間が3〜4時間程度の日が続きました。 

 そして三冊目は、宝島SUGOI文庫『戦略と戦術で解き明かす 真実の「日本戦史」戦国武将編』です。この本は、一冊目の『真実の「日本戦史」』の続編ということで宝島社からの相談を受け、別冊宝島としてではなく、始めから文庫本として出版しました。 

『桶狭間の戦いは「奇襲」ではなかった!戦略のプロが検証する戦国武将の用兵術!』という触れ込みで、毛利元就、織田信長、豊臣秀吉、真田父子ら覇権を目指した武将たちが、どのような戦略的思考で戦に臨み、どのようなリーダーシップで人を動かしたのか、という観点から戦国武将たちの「真実」を大胆に検証しました。 

内容的には、これまでの二冊をふまえて、内戦作戦と外線作戦、兵站、統帥といった「作戦戦略レベル」に重点を置き、ニセ情報を駆使した毛利元就の謀略戦、武田信玄の領地拡大戦略、織田信長の徹底した各個撃破と多面作戦、完璧な兵站の上に推進した豊臣秀吉の作戦戦略、戦国島津家による九州制覇の戦略などを、作戦経過図や年表を交えながら理解容易な形でまとめました。読み物としての面白みから、戦国乱世における武将たちの勇猛果敢にして高潔、かつ情愛に満ちた人物像を浮き彫りにして読者の琴線にふれることにも心掛けました。 

 これら三冊の自著は、幹部自衛官として戦略・戦術や指揮・統率について自学研鑽し、指揮官・幕僚、戦術教官などの勤務で実践してきた成果の集大成というべきものです。皆様にも、ご一読していただければ幸いです。

2011/8/29