『闘戦経』は「戦争抑止」の書、『孫子』は「戦争対処」の書
(読者の声3)過日、貴誌に拙著『闘戦経―武士道精神の原点を読み解く―』(並木書房)をご紹介いただき、誠にありがとうございました。おかげさまで、予想以上の反響で、編者として、うれしく思っております。 

●『闘戦経』は「戦争抑止」の書、『孫子』は「戦争対処」の書 

 『闘戦経』は、今から九百年前に大江匡房卿により書かれた日本最古の兵法であり、『孫子』と表裏をなす「純日本の兵法書」です。 

 『孫子』は優れた戦いの理論書であり、古くから日本の武将の用兵思想や統帥に多大な影響を与えてきましたが、その戦争観は「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道なり」というように、「常に存在する避けられないもの」との認識に立っています。 

それゆえに、その戦争にいかに対処し、少ない損害で勝利を収めるか、を主体に記述されています。具体的には文と武を切り離し、全ての戦いを「詭道(きどう)」として権謀術数を奨励し、実体のないものをあるものに見せかけ、敵を恫喝し、翻弄させて生じた弱点(虚)を徹底的に突くことを説いています(実を避けて虚を撃つ)。 

 これに対して『闘戦経』の戦争観は、「兵の本は禍患を杜ぐにあり」というように、「真鋭な軍隊の存在により避けうるもの」との認識に立っています。 

具体的には日本古来の「武」の知恵と「和」の精神に基づく「文武一元」を基本理念とし、「清く直く明けき心」に根ざした「剛毅」な精神により、権謀術数に掛からず、恫喝に屈せず、戦えば必ず勝てる実力を養うことで、敵に突かれるような弱点(虚)を生じさせないことを説いています(用兵の神妙は虚無に堕ちざるなり)。 

 ごく単純化して言えば、『闘戦経』は「戦争抑止」の書、『孫子』は「戦争対処」の書と言うことができます。 

そして、「抑止」と「対処」が常に表裏の関係にあるという原理・原則からも、『孫子』と『闘戦経』を表裏で学ぶことの重要性が理解できます。 

この『闘戦経』の教えこそ、シナ文明や西欧文明の荒波に曝されて混迷を極め、さらに大東亜戦争終戦後は、自らの手で祖国を護る気概すらも失いつつある日本人に戦う知恵と勇気を蘇らせ、やがては世界に真の平和をもたらしてくれる最高の『戦争論』ではないでしょうか。 

(日本兵法研究会会長 家村和幸) 

(宮崎正弘のコメント)宮本武蔵『五輪書』は英訳がありますが、この古典は英訳がありますか?

2007/5/26