書 評
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」平成25(2013)年9月1日(日曜日)より 

 寺井義守著、佐藤守校訂『ある駐米海軍武官の回想』(青林堂) 

 軍人として奇跡の人生を歩んだ海軍大将がいた。寺井義守は石川県に生まれ、海軍兵学校、海軍大学卒業後、鹿屋航空隊飛行長。そして開戦時、ワシントン日本大使館の駐在武官だった。 

 開戦と同時に日本大使館スタッフはリゾートホテルに移動させられ、しばし荏苒と時を過ごしたあと交換船で帰国した。 

 戦争中は中佐。戦後は海上自衛隊に復帰し、佐世保地方総監、鹿屋航空隊司令を経て幹部学校長。海将。 

 あの大東亜戦争開戦時にワシントンの大使館に駐在海軍武官として駐在していた貴重な歴史的証言が本書の肯綮である。 

 とくに開戦ともなると、日本大使館の「館外は米国人の野次馬、警察官が構外を警戒する」が、館員らが自宅から大使館に移動して集団生活となり、やがてヴィージニア州ホットスプリングに移動する。 

 そこは『保養地』でテニスコートもあったという。「二月十一日には、シンガポール陥落の報道があり、同胞全てが喜び合って翌日の紀元節を盛大に祝った」ほど、米国の抑留生活には余裕があり、また大使館員は特別待遇をアメリカでも受けていたことが分かる。 

 これまで伝えられなかった一級資料である。 

 戦争がおわって十二年後、すなわち昭和三十二年、アメリカ出張の機会に恵まれた筆者は旧敵のドン、ターナー将軍とニミッツ提督にあった。そのときの会見印象記が併載されているが、意外なことがおこるものと感心しながら読んだ。軍人として数奇の運命を歩んだ海将の記録である。

2013/9/20