会長挨拶

陸上自衛隊戦術教官時代

 私たち日本兵法研究会は、天皇陛下や皇室への敬愛の念や先人に対する尊敬と感謝の気持ちがあり、日本の歴史・伝統・文化を尊重する人々が、兵法書や武将 の生き様などを学ぶことを通じて、戦略・戦術的思考と武士道精神を身につけることを狙いとして設立するものです。健全な国民精神、中でも自己を高め、人を愛し、民族と祖国を思う心こそが、私たちの精神の基盤です。

 兵法とは何か。これについて明確に定義したものはありませんが、本会では兵法を「戦略、戦術、戦法及び統帥を包含した戦(いくさ)に関する最も大きな学術の概念」と捉えます。そして、目的と目標を確立し、敵・我・時間・空間の四要素から「戦の勝ち方」を導き出す思考プロセスが戦略・戦術的思考です。さらに、この戦の勝ち方を実行に移す原動力となるものこそが武士道精神です。

 武士道精神とは、正義感、忠節心、強くかつ優しい、己を捨てて公に尽くす・・・等、人間が作り上げた最高の「理性」です。浅薄な欧米流個人主義とは全く対称的なものであり、机上の勉強を通じて知識として身につけられるようなものではありません。先人の偉業に学び、志を同じくする師友と心ふれあい、自ら日々の実践に心がけることを通じてのみ、武士道精神は身につきます。

 二千六百有余年の輝かしい歴史を有する日本は、建国以来常に内憂外患を抱え、亡国の危機と隣り合わせにありました。日本を取り巻く周辺諸国は、昔も今も、決して平和を愛する諸国民でも、公正と信義の国でもないのです。近年になってようやく、日本の周辺国が専制と隷従、圧迫と偏狭に満ちた社会体制を未だ除去できずに現在に至っているという真実が、国民にも浸透しつつあります。つまり、国家とは存在する限り、常に「敵に囲まれている」という宿命にあり、この現状を糊塗するために敵や敵性勢力が用いる言葉が「友愛」です。弱い人間や弱い国ほど「友愛」という甘言に飛びつきます。しかし、弱い国には平和は永遠に訪れません。弱い国はやがて強い国に併呑され、消滅します。なぜなら、昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵、これが冷厳な国際社会だからです。強い力と正しい心に支えられた国だけが、内外に平和と安寧と秩序を生み出せるのです。

 たとえ先が見えない時代にあっても、いたずらに憂うことなく自らを、そして日本と日本人を信じて前進しましょう。愛する祖国がやがて迎えるであろう激動の時代を乗り越え、風雪に耐えて「国家」としての生存を維持するため、私たち一人ひとりが日本人としての誇りを取り戻し、高い志、広い視野と正しい判断力・決断力を身につけ、一旦緩急あらば義勇公に奉じる覚悟で、日々の勤めを全うしていかねばなりません。こうした知恵と情熱と意思を、兵法の修得を通じて自らのものにしようというのが、本会の趣旨です。  本会が「暗夜を照らす一燈」となり、愛する祖国日本の守りに貢献できることを願ってやみません。

 日本兵法研究会   会長 家村 和幸

 

プロフィール
兵法研究家、元陸上自衛官(二等陸佐)。昭和36年神奈川県生まれ。聖光学院高等学校卒業後、昭和55年、二等陸士で入隊、第10普通科連隊にて陸士長まで小銃手として奉職。
昭和57年、防衛大学校に入学、国際関係論を専攻。
卒業後は第72戦車連隊にて戦車小隊長、情報幹部、運用訓練幹部を拝命。
その後、指揮幕僚課程、中部方面総監部兵站幕僚、戦車中隊長、陸上幕僚監部留学担当幕僚、第6偵察隊長、幹部学校選抜試験班長、同校戦術教官、研究本部教育訓練担当研究員を歴任。平成22年10月退官し、予備自衛官(予備二等陸佐)となる。